京都地方裁判所 平成5年(行ウ)27号・平9年(行ウ)20号 判決
原告
西本和弘(X) (ほか八四三名)
原告ら訴訟代理人弁護士
中島晃
同
飯田昭
同
籠橋隆明
同
稲村五男
同
岩佐英夫
同
村井豊明
同
藤田正樹
同
佐藤健宗
同
大脇美保
同
小笠原伸児
同
小川達雄
同
竹下義樹
同
中村和雄
同
安保嘉博
同
高見澤昭治
同
三重利典
同
脇田喜智夫
同
阪口徳雄
同
津田広克
平成五年(行ウ)第ニ七号事件及び平成九年(行ウ)第二〇号事件被告
京都市建築主事(Y1) 谷久男
平成五年(行ウ)第二七号事件被告
京都市長(Y2) 桝本頼兼
被告両名訴訟代理人弁護士
崎間昌一郎
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 本件各建築確認処分の取消請求の訴えの利益について
1 「建築基準法によれば、建築主は、同法六条一項の建築物の建築等の工事をしようとする場合においては、右工事に着手する前に、その計画が当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築関係規定」という。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受けなければならず(六条一項。以下この確認を「建築確認」という。)、建築確認を受けない右建築物の建築等の工事は、することができないものとされ(六条五項)、また、建築主は、右工事を完了した場合においては、その旨を建築主事に届け出なければならず(七条一項)、建築主事が右届出を受理した場合においては、建築主事又はその委任を受けた当該市町村若しくは都道府県の吏員は、届出に係る建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを検査し(七条二項)、適合していることを認めたときは、建築主に対し検査済証を交付しなければならないものとされている(七条三項)。そして、特定行政庁は、建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に違反した建築物又は建築物の敷地については、建築主に対し、当該建築物の除去その他これらの規定に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる(九条一項。以下この命令を「違反是正命令」という。)とされている。これらの一連の規定に照らせば、建築確認は、建築基準法六条一項の建築物の建築等の工事が着手される前に、当該建築物の計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果が付与されており、建築関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものということができる。しかしながら、右工事が完了した後における建築主事等の検査は、当該建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを基準とし、同じく特定行政庁の違反是正命令は、当該建築物及びその敷地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを基準とし、いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない上、違反是正命令を発するかどうかは、特定行政庁の裁量にゆだねられているから、建築確認の存在は、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく、また、たとえ建築確認が違法であるとして判決で取り消されたとしても、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない。したがって、建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから、当該工事が完了した場合においては、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるものと言わざるを得ない。」(最判昭和五九年一〇月二六日民集三八巻一〇号一一六九頁)。
2 これを本件についてみると、〔証拠略〕によれば、本件各建築確認処分にかかる建築物(駅ビル)は、その工事が既に完了し、平成九年六月三〇日に被告京都市建築主事谷久男から京都駅ビル会社及びJR西日本に対し建築基準法七条三項の規定による検査済証が交付されこれが使用に供せられていることが認められるから、原告らの本件各建築確認処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものといわなければならない。
3 よって、原告らの本件各建築確認処分の取消しを求める訴えは、いずれもその余の判断をするまでもなく不適法である。
二 本件道路指定処分の取消請求の原告適格について
1 原告西本を除くその余の原告ら
(一) 行政事件訴訟法九条にいう「法律上の利益を有する者」とは当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害されまたは必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断するべきである(最判平成九年一月二八日民集五一巻一号二五〇頁)。
そこで、道路指定処分に関する行政法規である建築基準法の規定を見ると、同法は「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的」(一条)とし、第三章を「都市計画区域等における建築物の敷地、構造及び建築設備」と題し、総則(第一節)、建築物又はその敷地と道路又は壁面線との関係(第二節)、用途地域(第三節)、建築物の面積、高さ及び敷地内の空地(第四節)、防火地域(第五節)、美観地区(第六節)、地区計画等の区域(第七節)、都市計画区域以外の区域内の建築物の敷地及び構造(第八節)との細目について規定をもうけている。
そして、総則(第一節)において「この章(第八節を除く。)の規定は、都市計画区域内に限り、適用する。」との原則を掲げ、四二条一項において同章における「道路」の定義を行い、四号で「道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法又は大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法による新設又は変更の事業計画のある道路で、二年以内にその事業が執行される予定のものとして特定行政庁が指定したもの」を挙げている。これらの定めを基本として建築基準法は四三条一項において建築物の敷地は原則として二メートル以上道路に接しなければならないとのいわゆる接道義務を設定し、四四条一項において道路内の建築制限を行っているほか、建築物の敷地と接する道路の幅等により建築物の面積、高さの制限等に関する規制を定めている。
また、建築基準法四二条一項四号に掲げられた事業計画の根拠法も「交通の発展に寄与し、公共の福祉を増進すること」(道路法一条)、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与すること」(都市計画法一条)、「健全な市街地の造成を図り、もって公共の福祉の増進に資すること」(土地区画整理法一条)、「都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もって公共の福祉に寄与すること」(都市再開発法一条)、「大都市圏における健全な新都市の基盤の整備を図り、もって大都市における人口集中と宅地需給の緩和に資するとともに大都市圏の秩序ある発展に寄与すること」(新都市基盤整備法一条)、「大量の住宅及び住宅地の供給と良好な住宅街区の整備とを図り、もって大都市地域の秩序ある発展に寄与すること」(大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法一条)を目的としている。
これらの建築基準法等の目的、規定の趣旨、体裁等からすると、同法四二条一項四号は、前記各法令による新設又は変更の事業計画のある土地を現状が道路でなくとも、都市計画区域内における建築物との関係ではこれを道路と扱って接道義務等の充足の有無を判定し、建築物の建築制限を緩和するなどし、他方道路指定のあった土地には建築制限をもうけ相応の空間を確保して良好な都市環境の実現を目指し、もって都市計画の円滑化を図ろうとしたものと考えられる。以上のような広範な目的等に加え、道路指定処分に関連した手続において一般人の関与を念頭においた規定が見当たらないことなどからしても、同法四二条一項四号は同条等の定める直接的な要件の充足を通じて間接的・反射的に一般人が享受することができる都市環境等の増進を目指す趣旨のものと理解するほかないところである。
したがって、建築基準法四四条一項において道路内の建築制限を受ける者は、直接かつ具体的に法律上の権限の行使を制約されるから道路指定処分を争う訴えについて原告適格があるが、単に指定処分のあった道路の交通状況によって何らかの生活上の不利益等を受けるにすぎない者は行政事件訴訟法九条にいう「法律上の利益を有する者」にはあたらないというべきである。
(二) 原告福島らは、まず本件道路指定処分は土地区画整理事業の事業計画を計画どおり執行するための補完的な処分であり、道路の築造、供用開始に補完的な役割を果たしている本件道路指定処分によって指定された道路上の交通によって重大な影響を受けることを理由とし、また本件道路指定処分があることを前提になされた本件建築確認処分によって生活上、財産上の不利益を受けることを理由として本件道路指定処分についても原告適格がある旨主張するが、前者については前記(一)で説示したとおりであり、後者については本件道路指定処分自体によって生じたものではないから、原告福島らの主張する各不利益は法律上保護された利益にあたらない。
(三) 〔証拠略〕によれば、原告西本を除くその余の原告らはいずれも本件道路指定処分によって道路と指定された土地に所有権等の権利を有しておらず、道路と指定された土地上の交通状況により何らかの影響を受けるなどの地位にあるにすぎないことが認められる。
(四) したがって、原告西本を除くその余の原告らは原告適格がないというべきである。
2 原告西本
(一) 〔証拠略〕によれば、原告西本は本件道路指定処分によって道路と指定された京都市下京区三哲通西洞院東入東塩小路町八四一番の七の土地を所有(持分二分の一)し、右土地上に建物を所有(持分二分の一)していたが、本件土地区画整理事業決定に基づいて本件道路指定処分によって道路と指定された範囲外にある街区番号3、符号塩八四一―七、地積一三六平方メートルを仮換地指定され、平成九年二月一四日にその旨通知を受け、同年三月三日から仮換地指定の効力が発生したこと、また原告西本は同月一二日に支障物件の移転補償契約を締結し、平成九年九月三〇日に従前の宅地に所有していた建物の仮換地への移転工事を完了させ、現在は従前の宅地を使用収益していないことが認められる。
(二) ところで、前叙のとおり建築基準法四二条一項四号に基づく道路指定処分は、これによって道路として指定された土地における建築等を規制するものであり(同法四四条一項)、所有権に基づく権能のうち使用収益権限に制約を加えるものである。
また、土地区画整理法は、施行者は換地処分を行う前において、必要がある場合においては、施行地区内の宅地について仮換地を指定することができること(九八条一項前段)、仮換地を指定する場合においては、換地計画において定められた事項または同法に定める換地計画の決定の基準を考慮しなければならないこと(同条二項)、右仮換地の指定は、その仮換地となるべき土地の所有者及び従前の宅地の所有者に対し、仮換地の位置及び地積並びに仮換地の指定の効力発生の日を通知すること(同条四項)、仮換地が指定された場合においては、従前の宅地について権原に基づき使用し、または収益することができる者は、仮換地の指定の効力発生の日から換地処分の公告の日まで、仮換地について、従前の宅地について有する権利の内容である使用または収益と同じ使用または収益をすることができるが、従前の宅地については、使用し、または収益することができないこと(九九条一項)、仮換地について権原に基づき使用し、または収益することができる者は、仮換地の指定の効力発生の日から換地処分の公告の日まで、当該仮換地を使用し、収益することができないこと(同条三項)などと定めており、これらによれば、従前の宅地の所有者は、仮換地が指定されると、その指定の効力発生の日から換地処分の公告の日まで従前の宅地を使用収益することができなくなるのである。これを本件についてみると、原告西本は仮換地指定処分の効果により、これが変更または取り消されない限り、本件道路指定処分が取り消されたとしても、制約されている従前の宅地の使用収益権限を回復することはできないというほかない。しかも、仮換地の指定は換地計画において定められた事項または土地区画整理法に定める換地計画の決定の基準を考慮してなされ(九八条二項)、仮換地指定処分の変更は関係権利者の既得権を侵害し、法的安定性を損なうおそれがあるのでみだりになされるべきものではないと解されるから、それ自体変更及び取消し(ただし、この場合も法律上は別処分があることとなる。)の可能性はないとはいえないが極めて低いといわざるをえない。そのうえ仮換地指定処分に不服がある場合には、行政不服審査法による審査請求の申立て(土地区画整理法一二七条の二第一項)及び抗告訴訟の提起(行訴法三条)をすることができるが、前者は処分があったことを知った日の翌日から起算して六〇日以内にしなければならず(行政不服審査法一四条一項)、後者は処分があったことを知った日から三か月以内に提起しなければならない(行訴法一四条一項)ところ、原告西本は平成九年二月一四日に仮換地指定処分の通知を受けてその処分があったことを知りながら、審査請求の申立ても抗告訴訟の提起もしたとは認められないから、審査請求期間及び出訴鯛間が既に経過し、原告西本が右仮換地指定処分を争うことも困難である。さらに原告西本は同月一二日に支障物件の移転補償契約を締結し、従前の宅地に所有していた建物の仮換地への移転工事を完了させており、現在従前の宅地を使用収益していないことからすれば、右仮換地指定処分が取り消され、またはこれが変更される可能性は極めて少ないといえるから、仮換地指定処分の効果による制約は事実上も法律上も覆し難いものとなっている。
他方、一般に道路指定処分によって道路として指定された従前の宅地について指定道路の範囲外にある土地が仮換地に指定されても、従前の宅地に対してのみ道路指定の効力が及び、右仮換地にまで及ぶことはないと解されるから、道路指定処分によって道路と指定された従前の宅地の所有者は、右道路指定処分によって道路として指定された範囲外にある土地を仮換地として指定する処分の効力が発生した日以降は、右道路指定処分によって仮換地指定を受けた土地に対する使用収益権限は何ら制約されないことになる。
したがって、本件において原告西本は前記所有地についての仮換地指定処分により使用収益権能を喪失するとともに本件道路指定処分による建築等制限という使用収益上の制約を免れるに至ったものであるから、行政事件訴訟法九条にいう「法律上の利益を有する者」とはいえず、原告適格を喪失したというべきである。
(三) これに対し、原告西本は、仮換地であるがゆえに後日変更される余地がないとはいえないし、従前の宅地の処分権限は未だあり、従前の宅地を処分する場合には、本件道路指定処分が取り消されるか否かにより処分できるか否かが決まるといえるほどの決定事であるから本件道路指定処分の取消しを求める法律上保護されるべき利益がある旨主張する。
しかし、単に後日変更される余地がないとはいえないという主張が仮換地指定処分とは別の行政処分がされる余地があるという趣旨であれば、それだけでは前記判示を覆す根拠とはなりえないし、また従前の宅地の所有者は従前の宅地を処分することはできると解される(最判昭和三四年七月二日民集一三巻七号八七五頁)が、仮換地の処分権限はなく、仮換地を処分するには従前の宅地の所有権の処分権によらざるを得ないと解されるものの、実際の取引では売買当事者は仮換地の場所や範囲などに着目して代金額を決定するのが通常であろう(最判昭和四三年九月二四日民集二二巻九号一九五九頁の事案参照)から、特別の事情も認められない本件においては従前の宅地を処分する場合には本件道路指定処分が取り消されるか否かにより処分できるか否かが決まるといえるほどの決定事であるとはいえず、従前の宅地の処分権限があるというだけでは法律上保護されるべき利益があるとはいえない。
第四 結論
以上の次第で、原告らの被告京都市建築主事に対する各訴えはいずれも訴えの利益がなく、被告京都市長に対する訴えは原告らに原告適格が認められないから、いずれも不適法として却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大出晃之 裁判官 磯貝祐一 吉岡茂之)